「失敗を恐れず、好きなことに挑戦しつづけることの大切さ」

パットオン・ピパタナクル

勤務先:シーナカリンウィロート大学人文学部東洋言語学科

肩 書:助教授

東京女子大学現代文化学部コミュニケーション学科(1996年度卒業)

 私は現在、タイの首都バンコクにある国立シーナカリンウィロート大学で日本語や日本文学、日本事情を教えています。

 タイと日本の交流の歴史は長く、経済的にも文化的にも深い結びつきがあります。私の教え子たちも日本が大好きで、日本語をしっかりと身に付けキャリアに生かしたいという夢を持っています。将来役立つことを学んでほしいと、企業訪問やガイド実習、日本人学生との交流などを積極的に授業に取り入れています。日本に留学したり、日系企業に就職する人も少なくありません。

 私はタイの高校を卒業後に来日し、日本語学校で1年学んだのち現代文化学部コミュニケーション学科に入学しました。当時は日本語力が十分ではなく成績もいまひとつで卒業まで5年かかりましたが、友人にも恵まれ充実した学生生活を送ることができました。在学中は興味の赴くまま、レストランやディズニーランドなどいろいろな所でアルバイトに挑戦しました。なかでもやりがいを感じたのがタイ語講師で、生徒さんが上達して話せるようになると自分も嬉しくなりました。もともとテレビの仕事に就きたいという夢があったので、日本のテレビ番組をテーマに卒論を書き、卒業後は東京の番組制作会社で働きました。しかし制作現場の仕事は予想以上に厳しく、2年ほどで退職しました。

 その後、在京タイ王国大使館勤務などを経てバンコクに戻りました。通訳やガイドの仕事をするうち日本に関する知識が足りないと感じ、30歳を過ぎてから大学院で学び始めました。専攻は日本文学で研究も好きでしたが、アルバイトで知った「教えることの楽しさ」を思い出し、教員を目指すようになりました。時間はかかりましたが40歳を目前にしてなんとか博士号を取得し、今の大学で教えて10年以上になります。

 仕事柄、日本人の学生を相手に講義をしたり交流活動で接したりする機会も少なくありません。「真面目に話を聞く素直な学生が多い」という印象は自分が留学生だった30年前から変わりません。その一方で、どん欲に質問したり、自分の意見を積極的に表明したり、他の学生と活発に議論したりする姿勢を前面に出す人が、以前に比べて少なくなったように感じられます。

 今はインターネット、SNSなど様々な手段で情報を簡単に入手できる時代です。「どうせネットに答えが出てくる」、「今聞かなくても後でネットで調べれば分かる」と考え、目の前にいる生身の人間とのコミュニケーションが疎かになっていることはありませんか。

 また「異文化コミュニケーション」とは、多様な文化的・社会的背景を持つ者同士が価値観や信条、主義主張の違いを超えて互いを理解し、尊重するためのプロセスだと思います。テクノロジーが進化し、AIやビッグデータを駆使した自動通訳・翻訳技術も著しく向上していますが、外国の言語や文化を努力して学び、それを使って相手と語り合い、気持ちが通じ合えたと感じた時の喜びや充実感は、何ものにも代えがたいものです。国際化の進んだ日本では、海外へ行かずとも外国から来た人と接する機会がたくさんあるはずです。ご近所やアルバイト先など、身近なところで挨拶したり声を掛けたりすることから始めてはいかがでしょうか。その人が、自分が思いもしなかったバックグラウンドや考えを持っていたり、意外な共通点があることに気づくかもしれません。

 高校生や大学生の皆さんに私が伝えたいこと、それは「好きなことをとことん追求し、挑戦してください」、そして「多くの人と出会い、語り合う機会を得てください」ということです。若いうちは何度失敗しても、人間関係でつまずいても、やり直すことができます。傷つくことを恐れず、人の中にどんどん分け入って苦労をしてみてください。そこから得られるひとつひとつの経験が、己を知り、将来の道を切り開く糧となるはずです。

 私が今こうしていられるのも、当時は珍しかったタイからの女子留学生を受け入れてくれた東京女子大学の恩師や職員の皆様、そして右も左も分からない日本での生活を支えてくれた友人・知人たちのおかげです。転職を繰り返し、今の仕事に巡り合うまで時間がかかりましたが、全ての経験が無駄ではなかったと感じています。これからも一教員として、日タイ両国、そしてアジアの次の時代の架け橋となる人材を一人でも多く育てていきたいと思っています。

 東京女子大学がこれからも世界を舞台にいきいきと躍動する人材を輩出していくことを、一卒業生として期待しています。