私の研究分野は教育社会学です。特に、識字教育と生涯学習教育に興味を持っています。簡単に言うと、女子という理由や、貧困のため制服が買えず給食費が払えず、学校へ行くことができない子どもたちや、学校へ通った経験がないために非識字者となってしまった大人たちの日常生活での学びです。
時は2024年師走、未だに紛争や貧困、ジェンダー格差の解消が見られず、ユネスコの統計によると世界にはいまだ7億5000万人の非識字者がいるとされており、日本の人口の約7倍にあたります。
教育課題の要因や、文字の読み書きができないけれども、どのように知識を得て、その得た知識を何に役立てているのか、現地の人々との共同生活を通して、フィールドワークとインタビュー調査を実施している研究者です。そして、低所得国における教育の課題に興味を持つ原点はタイでの事柄でした。
高柳がタイと出会ったのは、大学3年夏休みのバックパッカーでアジアを放浪していた時です、もう数十年前のことです。当時の大学生にとって、今よりも世界はもう少し遠く感じられ、バイト代で貯めた現金をもって、リュックサック一つでドキドキしながらタイへ行きました。
バンコクで寺院を見たり、安全な安宿を探したり、屋台で安価なタイ料理を食べてお腹を壊したり(苦笑)、夜行電車でバンコクから北のチェンマイまで移動したり、フットマッサージを受けたり、わくわくすることばかりでした。
ところが、お昼ご飯を屋台で食べているとき、女の子が私に花を売りに近づいてきたのです。私はタイ語ができませんが、ゆっくりと英語で、「学校は?学校に行かないの?」というようなことを言いました。彼女は私の言葉を理解していないようでしたが、近くにいたタイの人が、彼女は貧しいために学校に行くことができず、花を売っているんだ、と。
この彼女との出会いは、私にはあまりにも衝撃的で、頭をゴーンとたたかれたような感じでした。これがきっかけで私は低所得国で学校に通うことができない子どもたちのための仕事をしたいと強く切望するようになり、それから数十年、導きのあるままに、パキスタン、インド、ネパールなどからザンビア、ケニアなどで様々な海外援助活動や研究をしながら、やっとタイと関わりを持ち始めたのが2006年。2020年からは、北タイにあるチェンマイ大学社会科学部社会開発学科と教育学部の先生たちと、北タイに在住する先住民の子どもたちの幼稚園教育に関する調査研究をしています。タイは、タイ語ですが、先住民の子どもたちの母語は多様で、子どもたちはタイの文化と自分が生まれ育った先住民の文化のはざまで過ごしています。私は特にカレンの人々が多く住む村々でホームステイをしながらインタビュー調査を継続しています。カレンの人々には、長老1,2,3といらっしゃいますが、この長老、1,2,3の方々にあいさつに行き、寝食を共にして信頼関係構築に努め、そこから村の人々へ面談をお願いしています。みなさん、フレンドリーで、カレンの哲学や思い、文化について、時にお酒を飲みながら教えてくれます。2024年8月-9月にかけて、3年生6名と共に、カレンの村にホームステイもさせていただき、学生たちも学びの多い時間を過ごすことができました。
学校へ通い基礎学力を身に付けることは人生の選択肢を広げることができ、各々のウエルビーイング向上にも有効で、重要なことです。一方で、口承や祭礼を通してカレンの言葉、生活の知恵、と文化の伝承に努めることも大事なことです。この両輪がお互いに補完しあいながら人の支えになり、教育がより平和な世界を育む機会を生み出すのではないかと考え、今も、私はフィールドワークをするのです。