「一歩踏みだして気づいたアジアの温かさ」

矢部  紬

勤務先:JICA青年海外協力隊

肩書:日本語教育隊員

東京女子大学国際社会学科国際関係専攻(2019年卒業)

 現在、青年海外協力隊の日本語教育隊員として中国江蘇省ジュツ陽県にある「建陵高校」で活動しています。ここでは会話の授業や日本文化を紹介するイベント、日本との交流会などを担当しています。

 私は東京女子大学を卒業後、すぐに協力隊員として中国に派遣されました。世界の文化や日本語教師という職業に興味を持っていたため、在学中は国際関係を専攻し、文化人類学のゼミで学びながら、日本語教員養成課程も受講していました。

 海外で日本語教師をしたいと思ったのは、大学2年生の夏、モンゴルの高校で行われたボランティアに参加したことがきっかけです。養成課程の授業で配られた1枚のチラシ。そこには「モンゴルで先生になりませんか?」という文字が書かれていました。長い夏休みに何か新しいことに挑戦したいと思っていた私は、挨拶の言葉さえ知らないモンゴルに飛び込んでみることにしました。不安と期待を抱え渡航した先で見たのは、日本から離れた場所で一生懸命日本語を学ぶ高校生の姿でした。日本人と接する機会が少ない中でも目標を持ち、日本語を学ぶ高校生の姿に感動したことを今でも鮮明に覚えています。他にも、私達のために日本語で一生懸命町案内をしてくれたり、慣れない私の授業にも楽しかったという言葉を掛けてくれたり。私はたくさんの温かさに触れました。このような経験から海外で日本語教師をしたいという気持ちが強くなり、大学4年生の時に青年海外協力隊に応募しました。そして今は念願が叶い、中国の高校生と一緒に勉強しています。

 現在、私が活動しているジュツ陽県は小さな町ということもあり、外国人が少なく、日本人はたった1人しかいません。町中や学校で「外国人(日本人)を初めて見た!」と言われることも珍しくありません。初めは受け入れてもらえるだろうかと不安な気持ちもありましたが、地域の方々は外国人である私を温かく迎え入れてくれて、会うたびに「ご飯食べた?」、「中国にはもう慣れた?」と優しく声を掛けてくれます。

 日本人がほとんどいないジュツ陽県にある建陵高校ですが、全校生徒の約半数にあたる2000人が日本語を第一外国語として学んでいます。授業は月曜日から日曜日までの7日間、朝6時半から夜22時まで行われています。生徒が1日自由に休めるのは月に1度のみです。初めは日本の高校との違いにとても驚きました。月に1度の貴重な休みには先生と話したいからと私を外に連れ出してくれる生徒もいます。また、忙しいスケジュールにも関わらず、毎日の授業や行事に全力で取り組む生徒達の姿を見ると、私も負けていられないなという気持ちになります。

 日本語クラスにはアニメやJ-POP、着物や歌舞伎など、様々な日本文化に興味を持つ生徒がいます。授業で浴衣や折り紙などの日本文化を扱うと、毎回とても楽しそうに体験してくれます。私自身、自国の文化について改めて考えるきっかけをもらっています。今後も活動を通して日本の文化や魅力を伝えていくと共に、私が肌で感じた中国の文化や魅力を日本の人々に伝える活動も行っていきたいと思います。

 中国で2年間活動した中で強く実感したことがあります。それは今までやってきたことは全て無駄にならないということです。授業においても生活においてもこの趣味・経験があってよかったと思うことがたくさんあります。例えば授業で絵が必要な時、工作をする時、日本の歌を教える時、私の趣味である物づくりや楽器が生きているなと感じます。現地の方と話す際にも自分の趣味や経験がコミュニケーションのツールになっていると感じることがあります。私は卓球という趣味を通して普段あまり交流する機会のない方々とも繋がることができました。

 今は何の役に立つのか分からないことも、続けていれば絶対に何かの役に立つ時が来ると思います。ぜひ自分の「好き」を大切にしてください。また、初めてのことに挑戦することはとても勇気がいることだと思います。不安なこともたくさんあると思いますが、ぜひ一歩踏み出して色々なことに挑戦していただけたらと思います。私も初めてのことに挑戦する時はいつも心配になり考えてしまいます。でも、今振り返ると大学2年生の夏、躊躇わずに一歩踏み出してよかったなと思います。あの時モンゴルに行ったからこそ、現在素敵な仲間に囲まれて中国で活動することができています。

 今はどんな活動をするにも厳しい状況が続いていますが、諦めずに一歩踏み出して挑戦してみてください。