「私の研究」

永原歩

東京女子大学現代教養学部 国際社会学科国際関係専攻准教授

 私は東京女子大学で第2外国語の韓国語の授業を担当し、韓国語の研究をしております。韓国語に出会ったのは、やはり大学の第2外国語でした。高校まで外国語と言えば英語しか知らなかったので、韓国語の語順が日本語とほとんど同じであることや、多くの漢字由来の語彙が日本語とよく似た音で発音されることに驚きました。同時に非常によく似ているにもかかわらず、発音はもちろん、助詞の使い方をはじめとした文法ではかなり違う部分があるということに強い興味を持ちました。高校までに学んだ国語や英語の文法はあまり好きではなかったのですが、韓国語の文法を学ぶことはとても楽しいと思いました。おそらくこの「楽しい」という気持ちが今の自分の原点になっているのだと思います。学部では英語学を専攻していましたので、英語を通じて学んだ言語学の基礎を生かしつつ、大学院で韓国語や言語習得について研究したいと思い進学しました。

 大学院に入ってからは、主に韓国語の助詞や他動性と助詞との関連について研究をしてきました。例えば、日本語では「水が飲みたい」「水を飲みたい」のように同じ構文で異なる助詞が使われることがありますが、韓国語でも同様の例が見られることから、なぜ「が」と「を」の両方が使えるのか、韓国語でも両方使えるのか、ということに興味を持ちました。表面的には直訳できるように見える韓国語と日本語の文も、実はそうではなく、日本語の構文は動詞に助動詞が付く過程で助詞が交替しやすい傾向があるのに対し、韓国語は交替しにくいことがわかりました。また、日本語の「が」「を」「に」にそれぞれ対応する韓国語の助詞があるのですが、それらが両言語で対応しない用例について、動詞の他動性の観点から研究しました。例えば日本語では「友達に会う」と言いますが、韓国語では「友達を会う」(直訳)というように、「会う」の前には「を」に当たる助詞が来ます。様々な用例を分析する中で、このような構文の違いは両言語の構文が示す「他動性」の違いによる、ということが見えてきました。博士論文で一度まとめたテーマですが、まだまだ課題も多く、このテーマについては今も研究を継続中です。

 最近は特に「敬語」が気になっています。韓国語にも敬語があり、日本語の敬語と同じように使われる場面も多いですが、韓国語の敬語はかなり構文的です。つまりたとえ子供であっても、話すときに目上の人が主語ならば、ほぼ自動的に動詞を尊敬形にする、というような使い方をします(例外はありますが)。ところが日本語の敬語はそうではなく、どちらかというと社会的、つまりある程度の年齢の人が社会的に必要な場面で必要な相手に使う、という傾向が強いと思います。相手によって変わる言葉遣いのことを「待遇表現」と言いますが、敬語以外の待遇表現も韓国語と日本語では少し違うと感じるところがあり、今後そのことについて深めていけたらと思っています。

 ちなみにコロナ禍で在宅時間が長くなり、韓国ドラマを見る時間が増えました。私にとってドラマや小説は研究アイデアの宝庫なのですが、ドラマを見ていても「ああ、こういう関係だと日本語ではふつう敬語使わないかも…」などと言葉遣いがとても気になるという症状?が出てしまい、内容に集中するのが大変です。これからも韓国語と日本語を通じて言語について考え、その魅力を学生の皆さんにも伝えていきたいです。